FiNANCiE Lab

ブロックチェーンで世界を変える、株式会社フィナンシェのテックチームブログです

BlockchainはP2Pでどうやって通信しているのか

BlockchainのP2Pな通信レイヤーについてご存知だろうか。それこそ、POWやPOSのようなコンセンサスアルゴリズムについては情報量が多く詳しい方が多いと思う。一方、P2Pな通信レイヤーは知らない方が多いのではないか。かく言う私も詳しくない。

そこで、BlockchainはどうやってP2P通信しているのかについて調査した。 - Author: tak

どうやって通信しているのか?

EthereumとIPFSはKademliaというネットワークプロトコルを使っている。(EthereumはKademliaの改良版)他にも、P2Pアプリケーションとして有名なBitTorrentもKademliaをベースにしたものを使っている。なお、Bitcoinは使っていない。理由は、Bitcoinは全てのNodeにトランザクションを送信したいから、らしい。

Kademliaとは

P2Pネットワークのために設計された分散ハッシュテーブルであり、Node間の通信において仮想的なネットワークを形成する。具体的には接続先のNodeを選んだり、Nodeのデータベースを管理する。

原文:Kademlia: A Peer-to-peer Information System Based on the XOR Metric

Kademiliaの詳細については、以下の記事が大変参考になる。

よりセキュアなS/Kademlia

Kademliaをセキュリティの観点で改良したものがS/Kademliaである。変更点としては主に2つ。

Proof of Work

1つ目が、NodeIDを作る時にProof of Workを使う点。これにより、シビルアタックに強くなる。 Blockchainの文脈でProof of WorkといえばBitcoinのNakamoto Consensusを指すことが多い。しかし、ここで言うProof of Workは本来の使われ方を意味する。本来のProof of Workは、スパムメールを防止するために、メールに一定量の計算をしたこと(労働)の証明を付与した。

NodeIDを作成するためには、コンピューターのリソースを消費するようなCrypto Puzzleを解く必要がある。これは、低コストで大量のIDを作れないことを意味し、不正なIDを大量に作ってネットワークを攻撃する、シビルアタックを経済的に実現しずらくしている。

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Lookup over disjoint paths

2つ目が、Lookup over disjoint pathsと呼ばれるもの。簡単に言えば、NodeIDを聞かれた時(FIND_NODE)に、聞かれたNodeIDと(XORの距離が)近しいNodeIDも一緒に返却すること。

これはネットワークのLivenessを保つのに有効である。たとえば、聞かれたNodeIDが悪意あるNodeで接続に失敗したとする。この場合でも、返却されたNodeIDの中に正常に接続できるものがあれば、ネットワークのLivenessは維持される。

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悪意あるNodeが増えても、返却するNodeID数を増やすことによって、接続成功率が高まる。

※この2つ以外にも、Route Tableの管理方法やSibling Listの数を改良しているが、詳しくは理解していない。以下原文を参照して欲しい。

S/Kademlia: A Practicable Approach Towards Secure Key-Based Routing

より下のレイヤーの通信

S/Kademliaより下の通信方法についてnoiseというプロジェクトを例に解説する。選んだ理由はドキュメントが整理されていてわかりやすいから。noiseはPerlinというSnowballというコンセンサスアルゴリズムを利用したDAG系のBlockchainの通信レイヤー部分に相当する。ちなみに、PerlinのCTOはKenta Iwasakiという日本人である。

P2Pの通信を確立するプロセスは大きく3段階に分かれている。

  1. 共通鍵の生成(楕円曲線ディフィー・ヘルマン鍵共有)
  2. メッセージ認証によってセキュアなセッション通信を確立(HMAC)
  3. S/KademliaによってNodeIDを交換しルーティングテーブルを更新

共通鍵の生成

前提知識となる楕円曲線ディフィー・ヘルマン鍵共有についてはwikiを参照。

AとBが通信を開始する場合を例に手順を解説する。

まず、互いにEd25519なキーペアを作成する。この鍵は一時的なものですぐに破棄される。そして相互にHandshake messageを送る。これには「公開鍵」と「規定のメッセージ(Noiseの場合は".noise_handshake"という文字列)の署名」が含む。

仮に、どちらか一方でも規定の時間内にHandshake messageのレスポンスを受信出来ない場合は、接続は失敗する。

受信した場合は、署名を検証し、正しければ互いに共有鍵を作成する。 Aの場合はAの秘密鍵とBの公開鍵からA鍵を生成し、Bの場合はBの秘密鍵とAの公開鍵からB鍵を生成する。A鍵とB鍵は楕円曲線上の点で、等しい。

参考: 4.1. Elliptic Curve Diffie-Hellman Handshake (ECDH)

メッセージ認証

前提知識としてHMACについてはMAC(メッセージ認証コード)とはを参照。

まず、前プロセスで生成した共通鍵をSHA256-basedのHKDFに渡して、認証鍵を作成する。次に乱数を生し、生成した乱数とACKを認証鍵で暗号化する。

そして、暗号化したメッセージを送信する。

レスポンスを受信したら、認証鍵で復号してメッセージの正当性を確認する。

参考: 4.2. Authenticated Encryption w/ Authenticated Data (AEAD)

S/Kademlia

まず断っておくと、S/Kademliaは仮想的な通信レイヤーである。実際の通信はメッセージ認証によってセキュリティを担保する。

はじめに、Nodeは自身のIDをProof of Workによって作成する。十分な計算力を費やされていない不正な形式のNodeID(たとえば、先頭の0ビット数が少ない)は、他のNodeから拒絶される。

Nodeを立ち上げると、規定のNodeリスト(IPFSの場合はBootstrap Peers Listと呼ぶ)へ接続しようとする。

接続に成功するとFIND_NODEを実行する。FIND_NODEはS/Kademliaが定めるプロトコルメッセージで、指定のNodeID(立ち上げ時は自身のNodeID)と距離の近しいNodeのリストを返却する。

返却結果をもとも、自身のRouting Tableを更新する。

参考: 4.3. S/Kademlia

【FiNANCiE】サービス設計のアップデート

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【FiNANCiE】サービス設計のアップデート

こんにちは。FiNANCiE(フィナンシェ)でUX・UIを担当している島津です。普段はサービスコンセプトを実現するために、ユーザーとコミュニケーションをとって体験価値をプロダクトに反映したり、機能改善のプランニングを行なったりしています。

現在Topページで説明しているFiNANCiEについての説明の設計も担当しました。

FiNANCiEとは

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FiNANCiEのコンセプト

financie.jp

今回はTopページで公開しているコンセプトについて、最近の取り組みや考察を言語化してみました。

応援される人と応援したい人の欲求

応援されたい人は、応援する人の「応援したい!」という気持ちを活かすことができ、それが自分の活動のエネルギーになることを望んでいると考えています。そんな応援されたい人に対して応援する人は「自分が応援したいと思って行動したことで喜んで欲しい、その人のためになりたい。」と思ってアクションを起こしていることが多いと考えています。

コミュニティ活動(エコシステム)によって満たしたい欲求

応援されたい人

応援してもらえてよかった

応援したい人

応援してよかった

このように明確に見えてきた欲求をサービスで実現すべく、FiNANCiEで実現するべき応援のかたちについて考えてみました。

FiNANCiEでの応援のかたちの構想

人によって異なる応援のかたちを共存させようと取り組んでいるのがFiNANCiEです。決まった応援の仕方があればそのときは応援を始めやすいかと思いますが、結局「なんか自分に合ってないな」というところが少しでもあると応援を継続することが難しくなってしまいます。あらゆるきっかけと継続スタイルを尊重し、共通した「応援したい!」という思いを軸としたコミュニティ活動(エコシステム)を実現すべく調査・考察をしていると下記のような視点が見えてきました。

応援のしかた

たとえば、お金はたくさんあるけど時間がないという人は「カード購入をして金銭面でサポートしたい」と思うとか、スキルや能力(ユーザー視点含む)を活かしたいという人は「コミュニティ内でオーナーの実現したいことについて一緒に考えるという行動から応援をしていきたい」と思うなど。はたまた両軸で応援したい人もいると思います。

注ぐ熱量

また、注ぐ熱量も人それぞれです。応援自体が生活の中心になる人もいれば、タイミングが合えば応援に時間を使いたいという人もいます。

好き・共感度

好き!わかる!という気持ちになる瞬間や、好きが継続する期間などの好きのフェーズにおける好き・共感度というのも人によって異なります。

「もう少し活動を見守ってみて好き度が高まったらカードを買うか検討しようかな」「今はコミュニティに書き込みにくいけど、もう少し慣れてきたらちょっとコアな話をしてみたいな」「オーナーが自己実現するために力になりたい、そのためにも仲間とファンを増やしたいし一人でも多くの人に良さを伝えたいな」

それぞれの思いのかたちは異なっていたとしても、オーナーを応援したいという気持ちは共通しているし、その気持ちはオーナーにとってエネルギーになると思います。

これらは、日々「応援したい!」という気持ちを持っている方々からいただいた視点を反映したものです。様々な「自己実現したい!」「応援したい!」という思いを活かせるプラットフォームになれるよう、コミュニティ視点でそれぞれが共存できる環境について考えています。

参考にしたアンケート

※現状できる範囲内での調査結果です。

Q.応援をしていて評価されて嬉しいと思うパターンを選ぶとしたら?

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アンケート01
Q.応援してよかった!嬉しい!と思う瞬間ってどんなとき?
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アンケート02
Q.応援の原動力は?
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アンケート03
Q.自分に合った応援のしかた(役割分担する感じで)がためになるギルドのような場があったら参加してみたいと思う?
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アンケート04

今考えているコミュニティの変容について

開拓期

オーナーの大義を実現するためのコミュニティ設計

  • トークチャンネル設計
  • 権限設計
  • 初期サポーター像の設計

選定期

オーナーの大義に基づいた活動について協力的な人を見つける (日々の取り組みから一緒に活動したいと思わせてくれる人)

構築期

協力的な人とともにライトなメンバーに働きかけ好きなポジションやスタンスで楽しめる雰囲気づくり

循環期

コミュニケーションが自律的に各所で発生し行われる

※まだ解像度が低いので日々アップデートしていきます。

それぞれの応援スタイルを尊重し、ドリームをシェアしていくために

オーナーの提唱するそれぞれの大義やコミュニティスタイルを軸として、共通した「応援したい!」という思いを共存させる方法を、ブロックチェーン技術を含め引き続き模索してみます。

人が増えればコミュニティも変わる。大きさ問わず、それぞれのフェーズでよりよい応援のかたちを実現できるよう調査・設計・開発に尽力しています。年内のアップデートはひと区切りになりますが、年明けのアップデートをお待ちいただけますと幸いです。引き続きよろしくお願いいたします。

最近の取り組み

新時代クリエイター発掘オーディション×ドリーム・シェアリング・サービス

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オーディションと絡むことによる可能性

lab.financie.jp

最近デビューしたオーナー

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動きのあるコミュニティ

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MUSA×FiNANCiEで実現したい「体験価値の創造」にフォーカスしてサービス設計について語ってみた

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MUSA×FiNANCiEで実現したい「体験価値の創造」にフォーカスしてサービス設計について語ってみた

こんにちは。FiNANCiE(フィナンシェ)でUX・UIを担当している島津です。普段はサービスコンセプトを実現するために、ユーザーとコミュニケーションをとって体験価値をプロダクトに反映したり、機能改善のプランニングを行なったりしています。

現在開催している「MUSA×FiNANCiE」のコンセプト設計も担当しています。

MUSA×FiNANCiEとは

新時代クリエイター発掘オーディションMUSAの最終審査に残ったクリエイターたちがコミュニティを活用し、各分野で活躍する審査員に自らの作品をアピールできる企画。

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この記事では「体験価値の創造」について焦点を当てながら、MUSA企画についてお話したいと思います。

FiNANCiEにおける理想のエコシステムについて

FiNANCiEエコシステムの理想として、「オーナーがコミュニティ活動をすると、コミュニティスコアが上昇」し、結果として「そのオーナーのカード価値があがる」ことを目指しています。ただ、「どのようなコミュニティ活動をすると、カード価値上昇につながるのか」に明確な解を導きだせていないのが現状であり、数人のオーナーさんに協力していただきながら検証を進めています。

そのなかで少しずつ見えてきたことがあります。

「コミュニティの中でオーナーが自分ならではの取り組みや思いを発信したり、コミュニティメンバーに協力を呼びかける活動をしたり、外部SNSに拡散しながら取り組みを一人でも多くの方に知ってもらう」ような動きをした場合、カードの価値が徐々に上がるという傾向があることが分かってきました。

これらのことから、「コミュニティスコアの上昇が見られるオーナーのコミュニティは、カードの価値も上昇している」という仮説が立つのではと考えています。

これを実証していけるようエコシステムをプロダクト・コミュニティ運営両面からブラッシュアップを続けています。

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コミュニティスコアの上昇とカードの価値の上昇

参考:コミュニティスコアとは? https://cutt.ly/jrrTrr8

参考:カードの価値とは? https://note.com/financie/n/n7189dbd7372a

MUSA×FiNANCiEによる可能性

この仮説をもとに、MUSAプロジェクトでは下記のような新たな可能性が見えてきました。

仮説①

最終オーディションで「審査員やFiNANCiE上のユーザーとマッチングする」という明確な目的に向かってコアファンと協力しながら歩むことで、FiNANCiE上での価値が上がる可能性がある

「応援したい!」と思っても、多くの人に共通して認識できる分かりやすい目標がないと、サポーター(=応援する人)はオーナー(=夢を持つ人)に対してまず何をやったらいいか、どんなふうに応援したらいいかがわからない可能性があります。

今回のMUSA企画は、応援の仕方をイメージしやすいものとなるのではないかと考えています。

仮説②

FiNANCiEでのコミュニティ活動によって、日々の(FiNANCiE外での)活動量が底上げされる結果、可視化された個人の価値を審査員(=第三者)が評価しやすく、直接的に仕事につながる可能性がある

通常のオーディションでは、その場で個人の力を評価することがメインになると思いますが、MUSAではオーナーさんに魅力を感じて「応援したい!」と思っている人たちの反応やコメントを見ながら、日々の取り組み自体を第三者(=審査員)が評価してもらえるオーディションとなっています。FiNANCiEのカードやコミュニティスコアなどから取り組みが可視化されることで定性的な取り組みをより、定量に近い形で評価できるというのが新たなポイントとなると考えています。

結果...

今回のオーディションで形成されたFiNANCiE内のコミュニティは、今後のクリエイター活動でもかけがえのない財産となる。

先述したとおり、FiNANCiEは実現したい夢に向けて、まず何から始めるか?が明確になっている状況からコミュニティ形成をスタートできます。オーナーもコミュニティメンバーも「応援する意味」「応援の仕方」というものを言語化でき、行動に起こしていきやすいため、コミュニティの開拓をしやすいのではないかと考えています。これらが提唱できれば、今後のオーナーさんたちの活動に活かしていけるのではないかと思っています。

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MUSA-活動的なコミュニティ(クリエイター)
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MUSA-活動的なコミュニティ(モデル/コスプレイヤー)

今回のMUSA×FiNANCiEによって実現したいこと

実現したい夢について、なぜやりたいのかを語れるオーナーと、その背景や目的について共通した「応援したい!」という気持ちを持つファンによってコミュニティを形成し、オーナーそれぞれの良さを引き出せる仕組みづくりをする。

そうすることでよりよい作品が創出され、新たな時代に必要不可欠なクリエイターを発掘し、その能力を発揮し、評価してもらえる場をつくっていきたいと考えています。また、その仕組みをFiNANCiE本体のコミュニティ形成のアップデートにつなげていきたいです。

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コミュニティによって実現する夢

ユーザーのみなさんとともにMUSA×FiNANCiEをきっかけに新しい体験価値を共創していきたい!

まずは初期サポーターとしてオーナーさんの夢への第一歩を共に歩んでみませんか?

オーナーさんたちの活躍をぜひ一度チェックしてみてください!



プレスリリース

prtimes.jp

MUSA×FiNANCiEの取り組みについて

note.com

note.com

MUSAとは

museum-creator-audition.jp

FiNANCiEとは

financie.jp

TangleというブロックじゃないBlockchainについて

フィナンシェでは隔週でBlockchainの勉強会を開いてます。「TangleというブロックじゃないBlockchain」について話したのでスライドをシェアします。ちなみに、社外の方も参加可能です。興味がある方がいたら、Facebookでご連絡ください。- Author: tak

要約

Blockchainといえば鎖状の形状をしているのが一般的だが、世の中には、網目状や格子状のBlockchainが存在する。DAG系チェーンと呼ばれるものたちで、ブロック自体が存在しなかったり、トランザクション手数料が無料といった特徴がある。 とりわけ有名なのが、IOTAで使われているTangleである。

TangleはIoTデバイスなどの小型端末同士の接続を想定していて、消費電力が少なくなるように設計されている。自トランザクションを自端末で承認する(自身がマイナー)ので、トランザクション手数料が存在しない。そして、マイニング報酬となる追加のコイン発行もない。ジェネシストランザクションと呼ばれる一番最初のトランザクションで全てのコインを発行する。

ネットワークに参加するIoTデバイスを常にオンラインにしておくことがSafetyとLivenessを担保するために必要であるが、これが現実的には厳しい。そのため現状は、Coordinatorによる中央集権体制をとっている。

解決策として、CoordicideやAvalanche等が提案されている。DAG系チェーンは歴史が浅く、発展途上。

スライド

中国におけるBlockchain関連プロジェクトを牽引する企業を一覧にした

※本記事は2019年12月時点の状況を整理したもの

中国では監視強化のために2019年1月からBlockchain技術を開発する全ての組織に対して、プロジェクトの登録が義務付けられている。既に500を超えるプロジェクトが登録されている。2019年10月18日に開催された党大会で習近平国家主席がBlockchain支持を表明したことで、中国でのBlockchain活用が加速するだろう。今後の動向を追跡するために、目についたプロジェクトを整理する。- Author: tak

要約

既に多くのプロジェクトが走り出している。実証検証を超えて、実際に使われている点が興味深い。検証では得られないような実運用データをもとに、改善が加速すると思われる。中国が欧米に変わってBlockchainの領域を主導していく未来が想像できる。

他国のプロジェクトと中国国内のプロジェクトを比較したとき、特徴的なのは、政府主導や巨大企業主導なプロジェクトが多い点だ。一般的に、実証検証から実運用には大きな障壁がある。しかし、強力な組織がトップダウンで主導することで、障壁を超えることができるのだろう。Blockchainは本来、中央集権的な組織と対立するものであるが、中央集権的な組織によって普及してゆくのは皮肉なことだ。

調査をして痛感したことは、中国語が読めないことの不便さである。一次情報は基本的に中国語であるので(WEBの場合はGoogle翻訳でなんとか理解できるが、PDFの場合も多い)読み解くのは困難だ。従って、英訳ないし和訳された2次情報を取得する他なく、もどかしさを感じた。自分たちの孫の世代では、英語だけでなく中国語も必須科目になっているかもしれない。

金融機関

貿易金融、資産運用、国際決済、サプライチェーン金融の4つのケースが最もよく見受けられた。

中国建設銀行(国内2位、世界2位)

中国建設銀行は2018年に貿易関連の企業内取引用プラットフォームをBlockchain基盤上に構築している。その取引高が約5兆7,700億円に達したこたことをうけ、2019年10月に大幅にアップデートしたと報じた。50の支店と40の外部組織間で商品取引と金融サービスに用いられている。クロスチェーン接続が可能になったことから、今後、金融や貿易分野の企業に参加を呼びかけるとのこと。

中国銀行(国内4位、世界4位)

2019年11月に中国銀行の保険部門が Hyperledger Fabric上に保険に関するコンソーシアムチェーンをローンチした。企業間で保険ポリシーに関する認識をそろえ、信頼関係を構築することを目的にしている。9月時点で400万の保険ポリシーが登録された。

平安銀行(四大保険会社の1つである中国平安保険に属する銀行)

平安銀行は中華系ではじめて、R3という金融機関コンソーシアムチェーンに加わった。R3は2015年にBlockchainの研究を開始するために8つの金融機関が集まったことからスタートした。今では300以上のグループが加入している。Cordaというエンタープライズ向けのBlockchainを開発している。

参考: 第4回:Cordaとは何か ~R3社について~

また、金融分野の契約管理プロセス自動化することを目的にOneConnectという会社を立ち上げた。例えば、数週間を要する、住宅ローンや自動車ローンなど資産を裏付けとして発行される資産担保証券(ABS)の契約締結プロセスを、1時間30分に短縮できるらしい。2019年6月時点で$13 billionのABS取引が行われ、契約プロセスに要する時間を85%削減した。Blockchain as a Service(BaaS)を掲げておりHyperLedgerのようなコンソーシアム型のチェーンであることが予想される。AIや平安グループのアーカイブを用い、1000以上の契約書テンプレートがBlockchain上に記録されている。

招商銀行(国内大手)

招商銀行Blockchain企業Nervosと提携、決済やトークン化などにおける金融系の分散型アプリケーションを構築すると発表した。既存の金融サービス分野をdAppsに移行させることを狙う。

巨大IT企業

中国の巨大IT企業は、米巨大IT企業とは対照的にBlockchainの導入に積極的だ。類似サービスを、それぞれがローンチしていることから、覇権争いが勃発するだろう。

Tencent(世界最大のゲーム会社)

TencentはBlockchain基盤の電子インボイスプラットフォームとしてDLTベースの汎用フレームワークを開発している。当プロジェクトは、中国の税務当局から承認を受けている。加えて、電子インボイス標準に関する国際会合で、英国・スイス・スウェーデン・ブラジルなどの国でも認められた。

既に実用化されている。例えば、深セン市の地下鉄でインボイスを発行する基盤として使われている。インボイスは地下鉄利用後、Wechatや深セン市地下鉄のモバイルアプリを通じて、直ちに発行される。また、招商銀行にて電子インボイス発行基盤として使われている

参考 - LayerX Newsletter for Tech (2019/10/28–11/03)

また、Tencentは香港にて仮想銀行の開業免許を取得した。仮想銀行とは、実店舗を持たずに営業を行う銀行で、日本のネット専業銀行に形態が近い。本銀行はBlockchainを利用するもので、開業するためにチームを作り始めているとのこと。

10月19日には、中国Blockchain業界の現状と展望を分析するwhitepaperを公表した。2016年12月に政府の5か年計画の文書に「Blockchain」という用語が初めて登場し、以降国や地方がBlockchainの関連研究や標準化、産業への活用に取り組むようになったと指摘した。白書によると、2019年6月時点で中国25省、市、自治区特別行政区がBlockchain関連政策を導入しており、特にFacebookが今年6月に仮想通貨プロジェクトLibra(リブラ)を発表して以降、政府や企業のBlockchainへの関心が高まっているという。

参考: 中国25省・市・自治区・特別行政区が政策にブロックチェーン導入

他にも、TencentはWebankと共同でBlockchainベースの自動車用データベースをローンチした。自動車開発のため産業間でデータを共有することや、自動車関連保険を最適に運用することを目的にしている。

WebankはTencentによって立ち上げられた中国初のネット銀行であり、3つのBlockchain関連サービスを公開している。

  • WeIdentity: 分散IDファウンデーション(DIF)メンバーとしてデジタルID(W3CのDID仕様準拠)を開発した。資格証明書のコンテンツハッシュ値や発行者の署名をBlockchainに格納し、欧州GDPR準拠で認証データ管理する。

  • WeBase: ノード管理やデプロイ、秘密鍵管理、データ分析、マイクロサービスなどの機能を提供するミドルウェアを開発。

  • WeEvent: イベントドリブンで組織横断・プラットフォーム横断のコラボレーション・イベント通知を行うもの。イベントはBlockchainに格納されるため、改ざん困難・トレーサビリティ・監査可能性を担保できるのが特徴。

Baidu(検索エンジンで国内1位、世界2位)

昨年には、クロスボーダーセツルメント用のBlockchain基盤をローンチしている。香港とフィリピン間で送金が可能。利用者はモバイルアプリと通して直接資金を送受金できる。これにより金融機関へ出向く必要がなくなり、加えて、送金時間が数秒と極めて高速化したことで利便性が向上した。

同じく昨年に、画像の著作権保護を目的にPIC-CHAINというBlockchain基盤をローンチしている。これはBaiduの既存画像ライブライを拡張したものである。画像そのものではなく、画像のリンクと著作権情報を保存する。著作権侵害の検出にはAIを利用した別システムを用いている。

2019年1月にBaaS(Blockchain as a Service)プラットフォームとしてBaidu Blockchain Engine (BBE)を公開した。「Ethereum」と「Hyperledger Fabric」と「XuperChain」の3つのチェーンをサポートする。プラットフォームとしてパフォーマンスやスループット以外にも、Smart Contractの監査機能を備える。なお、TencentもTencent Blockchain as a ServiceというBaaSをローンチしている

2019年8月にはメディカルデータ共有等を目的に医療分野に特化したXuperChainというBlockchainをローンチした。医療データが共有されることで、診療の精度と効率が上がる。まずは、病院と薬局間でデータ共有を行う。なお、XuperChainはクロスチェーンに対応しておりEthereumやHyperledgerと相互通信が可能とのこと。

約1年前にAlipayも同様のサービスをローンチしている

Alibaba

AlibabaはBlockchain関連技術の開発に積極的であり、特許申請数では、IBMやバンク・オブ・アメリカ(Bank of America)をしのぎ、合計90プロジェクトで首位となった

そして、2019年11月にAlipayは中小企業向けに「Ant Blockchain Open Alliance」という名称のBaaSサービス基盤をローンチした。3カ月の試験運用を行なった上で、2020年2月のローンチが予定されている。エンタープライズ向けのBlockchainサービスは比較的コストが高く中小企業にとって利用障壁が高い。一方、本サービスは低コストで利用しやすいとした。加えて、信頼できるネットワークを構築するため、承認に権威づけをすべく、教育機関や認証機関などをNodeに組み入れるとした。また、本サービスはAlibaba Cloud上で提供されるが、他のCloud基盤上でも動作するとした。

参考: LayerX Newsletter for Biz (2019/11/11–11/17)

また、2019年11月29日に、Alipayアラブ首長国連邦の決済プラットフォーム企業Finablrと提携し、共同事業としてBlockchain基盤の国際送金プロジェクトを立ち上げると公表した。Finablrは170ヶ国で計2500万人のユーザーを抱え、Alipayは各国のデジタルウォレット事業社と連携し約12億ものユーザーを抱えている。そして、FinablrはRippleNetの参加企業でもある。

「今回の提携では、AntFinancial(Alipayの運営企業)の送金システムにFinablrのプラットフォームが統合された。今後Alipayの各国デジタルウォレットパートナー企業を含む送金ネットワークへの拡大を検討している」と説明した。

JD(国内2位のECサイト

2019年10月、サプライチェーン向けトレーサビリティソリューションであるZhiyiにて13億のデータが記録されたと報じた。700以上の支店で6万の製品を管理している。JDはアリババに注ぐ、国内2位のECサイトで月間利用者は3億人にのぼる。

Zhiyiは主にサプライチェーンの透明性を高めるためのものである。全ての取引が記録されるため、企業は情報の真偽を知ることができる。特に、リコールの正当性を検証する際に便利である。また、Zhiyiは中信銀行資産担保証券取引(ABS)に利用されている。

他大手企業

金融やIT領域の企業に比べて数が少ない。金融やIT領域の企業が主導するプロジェクトは、他領域もカバーすることから、いずれ、他領域も組み込まれてゆくだろうことが想像される。

SinochemとPetroChina(国有石油大手)

2019年8月にSinochemとPetroChinaは原油取引のBlockchainコンソーシアムを結成したと明かした。国内外の他企業も加盟しているとのことだが、国有企業2社しか名前が上がっていない。開発費として$15milionを投じる予定とのころ。

基盤の仕組みとしては、大手石油会社のコンソーシアムチェーンであるVAKTと似たようなものらしい。VAKTはJPMorganのQuorumを使っており、ThoughtWorksというコンサル会社が開発している。

China Telecom(国内最大の通信事業者)

2019年8月に5Gに対応するBlockchain Smart PhoneのwhitepaperをリリースしたSIMカードベースのBlockchainによるデジタル資産管理システムで、データの損失や個人情報の流出など、モバイルネットワークの運用における主要な課題を解決することが目的とのこと。

政府

習近平国家主席がBlockchain技術推進を呼びかけたことが印象的だが、政府は横断的に様々なプロジェクトを主導している。

暗号法

国家主席によってBlockchain推進が発表されてすぐに「中華人民共和国暗号法」が可決された。同法は、暗号を国家機密に相当する「中核暗号」および「一般暗号」と、ビジネスに活用される「商業用暗号」に分け、輸出入における規制や国際標準づくりの奨励などを明確にした。2020年1月1日より施行される。

中国人民銀行中央銀行

同行のテクノロジー部門トップは商業銀行にデジタルファイナンスでのBlockchain技術を導入を求めており、中央銀行が発行主体となる中央銀行デジタル通貨(CBDC)について6 年以上に渡って研究している。2019年10月にデジタル人民元(DCEP)の発行を公式発表したことが記憶に新しい。(過去記事参照

続報として、2019年12月に中国人民銀行の元総裁が「国内小売決済の導入が最初の目標」と発言した。国際間決済利用については当面の目標ではないとしつつ、国内の一般決済を実施したのち、展開する可能性があると言及した。

また、2019年10月31日に「運営するBlockchain基盤の貿易金融プラットフォームが約1兆1500億円の取引を決済処理した」と報じた。このプラットフォームは、貿易金融における決済処理やクロスボーダーの資金調達、関税記録などを担うもの。報道によれば、既に5000件以上の決済処理が行われた。

Nationwide Blockchain Service Network (BSN

中国政府は、国内向けにBlockhainホスティングプラットフォームとして、BNSをリリースすることを公式発表した。システムの開発は主に、中国のVisaにあたるUnionPayと、政府系シンクタンクであるState Information Center (SIC)、および、世界最大の携帯電話事業者である中国移動通信が担当した。2019年10月時点でテスト段階であり、翌年の3月までにbeta版をローンチするとのこと。全て無料で利用できる。

BSNAlipayやBaiduが提供するプラットフォームよりもオープンで高効率であり、20%の手数料を払えば、個人や学生がサービスを開発できるとした。ファウンディングメンバーによると、テストフェーズが終わったらオープンソース化したいとのこと。

SICは「段階的に5GとIoTとAIが普及する。そして、BNSが高品質でカスタム可能なBlockchain基盤を提供ことでデジタルエコノミーが作られる。BNSを利用して新しいビジネスが生まれる」と提言とした。

スマートシティ向けID認証システム

2019年11月3日に中国の国営通信社は、スマートシティのインフラとしてBlockchain基盤のID認証システム開発したと報じた。本システムは石家荘市、河北省の3つの行政機関のシステムに組み込まれており、当日付(3日)より市民は認証IDを申請できる。本システムは中国政府によって分散的に管理されている。

都市開発の責任者は「今日の高度に発達したインターネットにおいて、データ共有が問題になっている。サービス間を横断して使えるIDが存在しない」と統一的な認証IDの必要性を説いた。発行されるIDはグローバル標準に準拠している。

教育動画公開

中国政府はBlockchain技術について25本の教育ビデオを公開した。中国では仮想通貨関連事業について厳しく規制されているが、BitcoinやEthereumに関する情報も含まれている。完全な初心者を対象としているものの、業界を熟知している人々にも見応えのある充実した教育内容も含んでいる。

ERC20は万能ではない件

CTOの西出です。 引き続きPolkadot/Substrateのリサーチ中です。新しい技術を触るときはワクワクしますね(後編をおまたせしてすみません)

Substrateで実装するサンプルのネタとして、過去にSolidityで作ったアプリを眺めていたところ、ふと思い出したトピックがあるので書き起こすことにしました。

表題に対していきなり真逆の結論からのべてしまいますが、ERC20という規格そのものは非常に汎用性が高く、スマートコントラクトを用いてERCトークン間やネイティブのイーサとの間で取引き・価値の交換を完結できるという点においては素晴らしい仕組みです。万能ではないのは、正確には現状のウォレットエコシステムということになります。

以前開発したコントラクトにおいて、満たしたかった要件/うち、満たせなかった要件について理由とともにご紹介します。

前提

  • 執筆時点の著者の知識の範囲から導いた結論です。考察不足・調査不足ということは大いに有り得るため、誤っているという指摘があればぜひ頂きたいです
  • ここで扱うユーザー資産は全てERC20トークンもしくはネイティブイーサで完結しており、かつユーザー自身のウォレットに保有されている/させるものを対象とします(Non-custody)
  • 法的なトピックはここでは扱いません

満たしたかった要件

  • フロントエンドを除き、ロジックは全てオンチェーン上で処理される(=アプリケーションサーバーを持たない)
  • 各手続き(※)の決済は、イーサの汎用ウォレット(例えばMetaMask)で完結させる
  • 各手続きは、ウォレットのトランザクション 1回 で行う

※ここでいう「手続き」とは、取り引きであったり、ゲームで何かを実行するといったことを指します。前提に従い、例えばユーザー間でERC20とネイティブイーサを交換する(いわゆるDEX)ことや、ゲーム内でとあるERC20(例えばスタミナ)を消費してERC721(モンスターの討伐戦利品)を取得する、というような不可分(Atomicであるべき)な一連の処理です。

満たせた要件

以下のユースケースに対しては上に挙げた要件3つを同時に満たすことができました。

  • ユーザーがネイティブイーサを使用して、ERCトークンを取得する

これはよく例えに使われる「自動販売機」の実現を意味します。ただし、得られるトークンの種類や数量の予測は、現行のウォレットの機能では行えないため、希望する条件通りのものが得られるかはコントラクトの中身を読み解かないと判断がつきません。自動販売機がバグってお金を入れたのにジュースが出てこない、なんて事が起こらないかを判断するのも重要である一方でそう容易では無いのですが、今回の論点からは外れるためそれについては議論しません。

満たせなかった要件

以下のユースケースに対しては上に挙げた要件3つを同時に満たすことができませんでした。

  • ユーザーがERCトークンを使用して、他のERCトークンもしくはネイティブイーサを取得する

これは「両替機」、もしくは「自動買い取り機」をイメージされると理解しやすいと思います。ERCトークンを送付する機能がウォレットに搭載されているにもかかわらず、送付した結果何かを受け取ることは同時には行なえないのです。

なぜ満たせたのか?満たせなかったのか?

なぜ「自動販売機」は実現できたのか?から説明します。

これは、Solidityのコントラクト実行がすべてメソッド呼び出しを起点として行われることが原因です。コントラクトのアドレスにイーサを送付すれば無名メソッドが暗黙に呼び出され、誰がいくら送付したかコントラクトから判断できるためその人に対価となる資産を移転すればトランザクションは完結します。売り物が一つしかない場合はこれで問題ありません。売り物が複数ある場合は、パラメーターつきのメソッド呼び出しにイーサを添付するような形で呼び出すことができます。いずれのケースでも、お釣りがある場合は元のアドレスに余剰イーサを送付すればよいわけです。また、送付されたイーサが商品の最低単価に満たない場合はメソッド呼び出しを失敗することで無かったことにできるでしょう(ガス代は消費されますが)

一方、「両替機」ないし「自動買い取り機」はなぜ実現できなかったのでしょうか?

これは、現在のERC20の仕組みに起因します。コントラクトにトークンを送付して対価に何かを受け取ろうとした場合、呼び出さなければいけないコントラクトが少なくとも2つあるのです。すなわち、ERC20のトークンのコントラクトと、「両替機/自動買い取り機」のコントラクトです。ネイティブイーサのようにトークンを「添付」して両替機/自動買い取り機コントラクトを呼び出すことはできず、必ず2回に分けて呼び出さないといけないのです。このせいで、以下の要件を満たすことができません。

これはUX上、極めて厄介なことです。どうあっても最低2回承認をしないといけないのです。事前にトークンを預かっておき、2回の承認を1度に代行してくれるようなコントラクトを作ることはできますが、これは前提の Non-custody に反します。

今後どうなれば解決できるのか?

この要件を本質的に解決できる方法として思いついたのは以下です。

  • ERC20にありがちな2回のコントラクト呼び出し approve / call の組み合わせを、ウォレットが一つに取りまとめてみせることでUI側でサポートする
  • ERC20を拡張し、使用されるコントラクト側の呼び出しをまとめて行うインターフェイスを定義する

このことから、表題のERC20はユーザー体験と言う意味で万能ではない、と考えました。

その後の調査

ERC20を使った試行錯誤をしていたのは2018/3ぐらいのことです。その後調べてみたところ、実は拡張した規格 ERC223 が2017/3にはすでに提案されており、さらに2017/7には ERC677 が提案されていたことがわかりました。実際、CoinMarketCapの上位にくる時価総額トークンではこれらの規格で実装されているものがすでにあります。あとは、これらの規格が最新のウォレットでUI的に十分サポートされていれば根本的に解決できそうです。ウォレット側の対応状況についても今後調査してみたいと思いますが、 ERC20 を採択する際には狭義の ERC20 で実装してしまうと実利用する際に大きな支障が出る可能性があるため十分な検討が必要であると結論付けます。 ERC223ERC677ERC20 としてのインターフェイスは備えているため、 狭義の(実装としての)ERC20 は万能ではないが 広義の(インターフェイスとしての)ERC20 は万能といってしまっていいかもしれません。

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Libraへの各国の反応を整理〜そして中央銀行デジタル通貨(CBDCs)へ

※本記事は2019年11月時点の状況を整理したもの

G7やBISはグローバルな仮想通貨(Libra)について声明を発表。VisaやMastercardが相次いでLibra Associationから脱退。各国中銀がCBDCの発行を検討している。さまざまなニュースが飛び交うなかで情報を一旦整理する。 - Author: tak

要約

f:id:re795h:20191119171048p:plain G7やBISといった国際金融規制当局はLibraのようなグローバルステーブルコインに対して「法規制の遵守や通貨としての監督責任を果たさない、グローバルステーブルコインの運用開始を認めない」との声明を発表した。それを受け、Libraは「国家主権を脅かすものではないし、国際金融の安定を重視する」との声明を発表した。

一方、国際金融規制当局は各国中央銀行に向けて「公的機関が主導して、法規制の整備に務めるべき」ことや「リスク解決に向けて各セクターと協力し会うべき」ことを提唱した。スイスではCBCD発行に向けた実証検証の開始が発表された。中国ではCBCDの発行が正式に発表された。米では議員よりFRBにCBCD開発検討を希望する書簡が提出された。日本では日銀でCBCDの発行が調査されている。

Libraとは

まず、Libraのミッションについて改めて確認する。

Libraのミッションは数十億人のエンパワーメントにつながる、シンプルでグローバルな通貨と金融インフラを提供することです。

ここから、Libraの機能として「シンプルでグローバルな通貨」と「金融インフラ」の2つが読み取れる。ブロックチェーン用語で言い直すと、それぞれ「ステーブルコイン」と「分散アプリケーション」に対応する。各国の反応を見る「ステーブルコイン」としての側面に着目しているようである。 以降「ステーブルコイン」としてのLibraに焦点を当てる。

ステーブルコインとしてのLibra

Libraは、通貨バスケット制による複数の法定通貨を裏付け資産としたステーブルコインを計画していた。法定通貨の構成比は、米ドル50%、ユーロ18%、円14%、ポンド11%、シンガポールドル7%という設計であった。

しかし、10月17、18日にワシントンで開かれたG20・主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議では、リブラなどのデジタル通貨に「深刻なリスク」があるとの合意文書がまとめられ、当面は発行を認めない方針が確認されたことから、リブラをドルやユーロなどと1対1で連動させる代替プランへの切り替えが検討されている。

数あるステーブルコインの中で、Libraが優れている点は入手しやすさになる。Libraは Facebookが提供するメッセージアプリ「Messenger」や「Whatsapp」から利用できる。これらのアプリは既に多くのユーザを抱えていて、アップデートするだけで利用できるようになる。つまり、Libraは急速に普及する可能性を秘めている。

Libraの発行権はLibra Associationが持ち、各国中央銀行にはない。中央銀行に発行権のない通貨が、日常的に使える通貨として普及してしまうことは、金融政策などの経済の回復や発展、安定化を測るような既存手法が通用しなくなる可能性を秘めている。

Bitcoin金融危機

かつて、金融危機の資産防衛手段としてビットコインが使われたことがある。金融危機はヨーロッパの小国、キプロスで発生した。

キプロスは、欧州の実質的なタックスヘイブンのひとつだが、ロシアの富豪などを中心にキプロスに資産を預ける投資家が多かった。そんなキプロスが、2013年3月16日にギリシャ危機のあおりを食って預金封鎖や預金に対して課税する預金税を実施した。当然、富豪たちは預金をキプロスから逃避させようとした。その際に用いられた手段がBitcoinであった。Bitcoinに国境は関係ない。国の検閲を受けることなく、資金を自由に移動できる。

仮に、Libraが普及して同じような金融危機が発生したら、資金の逃避先としてLibraが用いられる可能性は高い。なぜならLibraの価値はBitcoinと異なりー定だからだ。キプロス金融危機の際にBitcoinの価格は急騰したが、Libraにこのようなリスクはない。

Libraの普及により既存の金融規制が効力を失う可能性がある。各国中央銀行にとって、好ましい状況とは言えない。

金融安定理事会(FSB)のレポートからG7の議長声明まで

FSBは国際金融に関する措置、規制、監督などの役割を担う組織。活動内容には「金融システムの脆弱性への対応」や「金融システムの安定を担う当局間の協調の促進」を含む。ステーブルコインについて話し合う場としてふさわしいと思われる。

FSBは2019年10月19日に「Regulatory issues of stablecoins」と題したレポートを発行し、ステーブルコインの監督と規制の必要性を喚起した。

内容としては、2019年6月に大阪で開催されたG20の声明の「革命的な技術は既存金融に有益であるが、暗号資産は国際金融を脅かしてはならない」を踏まえており「予想されるリスクを特定、監視、解決するために、効果的な規制と監督が必要である」と提起した。

10月にG7 working groupが、国際通貨基金(IMF)と国際決済銀行(BIS)の連名で「Investigating the impact of global stablecoins」と題するレポートを発行した。ちなみに、FSBの参加国にIMFは含まれるし、FSBはBISに設置されている。FSBでの議論を深めた形で、ステーブルコインの抱える課題が具体的に列挙された。

Libraのようなグローバルステーブルコインに対して「法規制を遵守し、通貨としての監督責任を果たし、あらゆるリスクを解決しない限り、いかなるグローバルステーブルコインの運用開始を認めない」とした。一方、ステーブルコインのような革新的技術が既存金融の欠点を解決する可能性を秘めていることを認めて「公的機関が主導して、法規制の整備に務めるべき」ことや「リスク解決に向けて各セクターと協力し会うべき」ことを提唱した。

このレポートに続く形で10月21日にステーブルコインに関する G7 議長声明が発行された。論調は上述のレポートを踏まえており「法律上、規制上及び監督上の課題やリスクに十分な対応がなされるまで、いかなるグローバル・ステーブルコインもサービスを開始すべきではない」とした。

同声明は「我々はまた、中央銀行デジタル通貨(CBDCs)の評価に関し、中央銀行により進められている協力的な取組を歓迎する」と締めくくられている。この声明に沿う形で、各国中央銀行はCBDCの発行を検討するだろう。

既にスイス国立銀行は、実証検証を開始している。

参考資料 - LayerX Newsletter for Biz (2019/10/14–10/20)

スイス国立銀行の実証検証

2019年10月8日にスイス国立銀行(SNB)がBISのイノベーションハブになることに合意した。そして、SNBは最初の取り組みとして2点をあげた。

一方が、トークン化されたデジタル資産の取引を含む、CBDCとBlockchainの統合検証。スイス証券取引所(SIX)が実証検証を担うが、実質的には傘下のスイスデジタル取引所(SDX)が担当するはず。

他方が、中央銀行によるデジタル通貨流通の効果的な追跡と監視が可能かどうかの検証。

なお、BISのイノベーションハブ候補として他にも、Hong KongとSingaporeの名前が上がっている。かつてBISはヨーロッパ単一通貨(ユーロ)の導入に大きな影響を及ぼしたと囁かれる。ユーロ同様、スイスでの実験はヨーロッパ単一CBDC導入を視野に入れているかもしれない。

事実として、2019年10月30日にドイツ銀行が「プログラム可能なデジタルユーロが必要である」との声明を発表した。

中国の中央銀行デジタル通貨(DCEPという呼称)

2019年10月末、中央銀行によりデジタル通貨を発行することが、正式に発表された。中国の習近平国家主席が、Blockchainの適用推進を表明して以来、人民日報でブロックチェーンが一面に掲載されたり、トップ大学でブロックチェーン講座開講が開始された他、早々に全人代で暗号法が可決される等、国家規模での取り組みの火蓋がいよいよ切って落とされた感がある。

参考資料 - LayerX Newsletter for Biz (2019/10/21–10/27)

DCEPの内容については、中国国際経済交流センター副理事長、黄奇帆氏の声明をもとに書き下ろされたwhtiepaterが詳しい。

声明で、Blockchainが米ドルの金融支配に対抗する手段であることに言及した。「イランへの金融制裁は、イラン国内の金融機関が外部と遮断される事態を招き」また「ウクライナ金融危機でロシアをSWIFTから外す可能性を示唆したことが、ロシアの経済危機を招いた」と批判した。そして、SWIFTは時代遅れであるとし、国際間決済においてBlockchainの方が優秀であるとした。国際取引の多くはドルを使わないと成立せず、従って国際取引の多くは米国政府やFRB(連邦準備制度)の監視を免れない。中国にとって米ドルに代わり、自国の監視下にある国際決済手段を推進することは重要である。

また、DCEPは2段階システム方式であることを明かした。これは8月に公開されたBinanceによるFirst Look: China's Central Bank Digital Currencyというレポートの内容と一致する。 f:id:re795h:20191109141215p:plain 一階層で中国人民銀行が商業金融機関へ通貨を供給し、第二階層で商業金融機関が民間へ再配布する。「DCEPは人民元のデジタル化ではない」とし「口座に紐づかないデジタル通貨であり人民元に代わり流通と国際化に貢献させるものである」とした。

他方、中国政府が発行するCBDCについては、全体主義国家が個人の行動を掌握し、追跡する手段であり恐ろしいとの見方もある。

2019年11月21日追記 - 2019年11月12日に中国人民銀行は、中国国民の個人情報を支配する意図でDCEPを発行するものではないとの見解を示した。決済取引の匿名性を維持したいとの要望は認識しているとのこと。

また、13日に中国人民銀行は、DCEPはまだテスト段階であると公式声明を発表した。ローンチの日付もスケジュールに関しても詳細を説明していない。そして、中央銀行の名前で行われるローンチの発表は、詐欺やマルチ商法の可能性もあると注意を促した。

Libraの反応と米議員のCBDC開発申請

Libra AssociationはG7 Working Groupのレポートを受けThe Regulatory Regime for Stablecoinsと題した声明を発表した。

その中で「Libraは国家主権を脅かすものではないし、国際金融の安定を重視する」と主張した。そして「マネーロンダリング等の非合法な金融を防止するよう設計され、既存の法定通貨法に適応されるような法規制を遵守するものである」とした。

2019年10月23日には米国議会によるLibraに関する公聴会が開催された。

Zuckerberg CEOは、米規制当局が認めるまで、世界のどこにおいてもリブラ発行に関与しないと言及し、発行期間の延期も視野に入れた返答を行なった。また、米国で認可されなければ、同社は運営組織であるLibra Associationから脱退する可能性も示した。加えて注目されたのは、中国人民銀行が検討中の中銀デジタル通貨。Libraは米国が金融における世界のリーダーシップを維持しつづけるための国益に資するものだと主張した。

参考資料 - LayerX Newsletter for Biz (2019/10/21–10/27)

Libra公聴会に先立ち、2019年10月はじめ、2人の米議員が、米連邦準備制度理事会(FRB)によるデジタル米ドルの開発検討を希望する書簡を送っている。

書簡で「デジタル法定通貨が広範に採用されることにより、米ドルの優位性が長期的に脅かされる」と懸念を示した。そして「フェイスブック・リブラの提案がもし実行されれば、米国管轄外における金融ガバナンスの重要な側面を取りさってしまう可能性がある」と主張した上で「FRBは、米国の中央銀行として、国家のデジタル通貨を開発する能力と然るべき立場を備えている」とした。

日銀の法律問題研究会

日銀はG7声明の1ヶ月前に「中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会」報告書と題したレポートを発行した。「CBDCに関する関心が高まっている」とし「CBDC の発行については、金融システムや経済全体への影響を慎重に見極める必要性が指摘されていることから、わが国における CBDCを巡る主な法的論点の洗い出しおよび検討を行った」とした。

CBDCを法によって強制通用力を与えられた通貨(法貨)として認めるかについては「日本銀行法および通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律の改正、または新規立法が必要となろう」として慎重に検討する必要があるとした。「電力に依存する点で災害時の決済手段としての有用性に欠ける」というデジタル通貨特有の問題も指摘されている。

レポート内で、CBDCの発行形態として「口座型」と「トークン型」の2つがあげられた。口座型は銀行口座のような形態で、トークン型がBitcoinのような形態。CBDC の発行や利用にあたり、日本銀行が手数料を徴収することについては「政策的見地から無料あるいは原価を大幅に下回る水準に設定することが考えられる」とした。

通貨の流通形態としてトークン型の場合で直接金融と間接金融の2パターンが考察された。前者は日銀を唯一のバリデーターとするPublicチェーンのようなもの。後者は、中国のCBDCのように、日銀と一般利用者の間に金融機関のような仲介機関をおくモデル。

トークン型通貨を不正取得するため、悪意ある人物がCBDCウォレットに不正アクセスして通貨を奪取した場合について「現金の場合と同様に、不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求による救済を検討することになろう」とした。また、トークン型通貨を強制的に差押える場合について「具体的な方法は十分に整備されておらず、どのように整備するかが問題となろう」とした。そしてCBDCの偽造・複製行為については「現行法のもとでは、CBDCの偽造・複製行為には通貨偽造罪は成立しない」とし、法改正が必要であるとした。

CBDC に現金と同様の匿名性を付与することに対しては「AML/CFTの観点から、慎重な検討を要する」とした。また、仮に現行の AML/CFT 規制と同様の規制がCBDCについても適用されるならば「日本銀行または仲介機関は本人特定事項等を確認する責任を負うことになる」とした。

シンガポール金融管理局(MAS)による実証検証

2019年11月21日追記 - MASはJP MorganやTemasekらとともに通貨のリアルタイムグロス決済や、チェーンを跨いだ証券と資金決済に関する実証実験を行ったと発表した。そして、2年に渡る検証のレポートを2020年始めに発表するとした。

「今回の実証実験を通じて、他国の中央銀行ブロックチェーン技術に興味を示し、世界各国の銀行でブロックチェーンを通じた国際決済ネットワークを構築できるようになることを望む」とMASの担当者は発言している。

参照: LayerX Newsletter for Biz (2019/11/11–11/17)

金利調整機能付きCBDC

中央銀行が終わる日―ビットコインと通貨の未来―」という本の「金利付き中央銀行デジタル通貨」という概念が非常に興味深い。

長期的な低金利政策によって流動性の罠に陥ってしまうと、金融緩和政策は効力を失う。これを抜け出す方法としてシルビオ・ゲゼルが提唱する減価する貨幣が有効である。

財やサービスの多くが時間の経過とともに劣化するのに対し、インフレがないと仮定すると貨幣の価値は減らない。一方、減価する通貨は、徐々に貨幣価値が下がる通貨である。たとえば「1万円札が毎月50円ずつ減価する」そのような通貨だ。預金により価値が目減りすることは、人々の消費行動を促進し、結果として強いインフレ圧力が働く。ゼロ金利の壁を超え、マイナス金利になることでデフレを脱却する。

この通貨が提案された当時は、貨幣にスタンプを貼ることでしか価値の減価を行えなかった。しかし、Blockchainの登場によって貨幣の金利をプログラムできるようになった。日本のように流動性の罠に陥ってしまった国家にとって、金利調整機能付きは、デフレを脱却する救世主となりうる。

また、公定歩合の変更や公開市場操作といった間接的な手法でしかなし得なかった金融緩和や金融引き締めを、プログラム化された金利操作による直接的な形で行えるようになることの影響は計り知れない。この様な形での金融政策は絶大な効力を発揮するだろう。

本記事に関する勉強会で出た意見

2019年11月21日追記

  • 「各国政府がグローバルステーブルコインに拒絶反応を示のは、通貨発行益を得られなくなることが大きいのではないか」という意見が出た。グローバルステーブルコイン発行益はコンソーシアム参加者で分け合うので、各国政府へは還元されない。「自分たちの利益のためとは、大々的に言えないので、公にはされないが、裏ではそのような思惑もあるのではないか」とのこと。また「LibraだけでなくRipple等の国際決済手段になりうる通貨は、等しく規制の対象になるべきだ。なってないのは、通貨発行益を侵害しないからなのではないか」とのこと。
  • 「米国民は法定通貨のような国が中央集権的に管理する仕組みに、ネガティヴな印象を持っている。なので、CBDC発行にも積極的に共感できない」という意見が出た。「中央集権で強い政府に共産主義を感じて拒否反応を少なからず示す」とのこと。
  • 暴力団等の反社会的組織は、マネーロンダリングのたの手段として、仮想通貨を積極的に研究している」とのこと。「北朝鮮イスラム過激派も同じ。各国規制当局はグローバルステーブルコインの普及によって、統治体制が転覆されるのではないかという不安を抱えている」とのこと。性善説に立てばグローバルステーブルコインの普及は世の中を便利にするはずだ。一方、世の中には悪事を働こと自棄になっている人もいるので、性悪説に立つことも大切だと気づいた。