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ブロックチェーンで世界を変える、株式会社フィナンシェのテックチームブログです

中国におけるBlockchain関連プロジェクトを牽引する企業を一覧にした

※本記事は2019年12月時点の状況を整理したもの

中国では監視強化のために2019年1月からBlockchain技術を開発する全ての組織に対して、プロジェクトの登録が義務付けられている。既に500を超えるプロジェクトが登録されている。2019年10月18日に開催された党大会で習近平国家主席がBlockchain支持を表明したことで、中国でのBlockchain活用が加速するだろう。今後の動向を追跡するために、目についたプロジェクトを整理する。- Author: tak

要約

既に多くのプロジェクトが走り出している。実証検証を超えて、実際に使われている点が興味深い。検証では得られないような実運用データをもとに、改善が加速すると思われる。中国が欧米に変わってBlockchainの領域を主導していく未来が想像できる。

他国のプロジェクトと中国国内のプロジェクトを比較したとき、特徴的なのは、政府主導や巨大企業主導なプロジェクトが多い点だ。一般的に、実証検証から実運用には大きな障壁がある。しかし、強力な組織がトップダウンで主導することで、障壁を超えることができるのだろう。Blockchainは本来、中央集権的な組織と対立するものであるが、中央集権的な組織によって普及してゆくのは皮肉なことだ。

調査をして痛感したことは、中国語が読めないことの不便さである。一次情報は基本的に中国語であるので(WEBの場合はGoogle翻訳でなんとか理解できるが、PDFの場合も多い)読み解くのは困難だ。従って、英訳ないし和訳された2次情報を取得する他なく、もどかしさを感じた。自分たちの孫の世代では、英語だけでなく中国語も必須科目になっているかもしれない。

金融機関

貿易金融、資産運用、国際決済、サプライチェーン金融の4つのケースが最もよく見受けられた。

中国建設銀行(国内2位、世界2位)

中国建設銀行は2018年に貿易関連の企業内取引用プラットフォームをBlockchain基盤上に構築している。その取引高が約5兆7,700億円に達したこたことをうけ、2019年10月に大幅にアップデートしたと報じた。50の支店と40の外部組織間で商品取引と金融サービスに用いられている。クロスチェーン接続が可能になったことから、今後、金融や貿易分野の企業に参加を呼びかけるとのこと。

中国銀行(国内4位、世界4位)

2019年11月に中国銀行の保険部門が Hyperledger Fabric上に保険に関するコンソーシアムチェーンをローンチした。企業間で保険ポリシーに関する認識をそろえ、信頼関係を構築することを目的にしている。9月時点で400万の保険ポリシーが登録された。

平安銀行(四大保険会社の1つである中国平安保険に属する銀行)

平安銀行は中華系ではじめて、R3という金融機関コンソーシアムチェーンに加わった。R3は2015年にBlockchainの研究を開始するために8つの金融機関が集まったことからスタートした。今では300以上のグループが加入している。Cordaというエンタープライズ向けのBlockchainを開発している。

参考: 第4回:Cordaとは何か ~R3社について~

また、金融分野の契約管理プロセス自動化することを目的にOneConnectという会社を立ち上げた。例えば、数週間を要する、住宅ローンや自動車ローンなど資産を裏付けとして発行される資産担保証券(ABS)の契約締結プロセスを、1時間30分に短縮できるらしい。2019年6月時点で$13 billionのABS取引が行われ、契約プロセスに要する時間を85%削減した。Blockchain as a Service(BaaS)を掲げておりHyperLedgerのようなコンソーシアム型のチェーンであることが予想される。AIや平安グループのアーカイブを用い、1000以上の契約書テンプレートがBlockchain上に記録されている。

招商銀行(国内大手)

招商銀行Blockchain企業Nervosと提携、決済やトークン化などにおける金融系の分散型アプリケーションを構築すると発表した。既存の金融サービス分野をdAppsに移行させることを狙う。

巨大IT企業

中国の巨大IT企業は、米巨大IT企業とは対照的にBlockchainの導入に積極的だ。類似サービスを、それぞれがローンチしていることから、覇権争いが勃発するだろう。

Tencent(世界最大のゲーム会社)

TencentはBlockchain基盤の電子インボイスプラットフォームとしてDLTベースの汎用フレームワークを開発している。当プロジェクトは、中国の税務当局から承認を受けている。加えて、電子インボイス標準に関する国際会合で、英国・スイス・スウェーデン・ブラジルなどの国でも認められた。

既に実用化されている。例えば、深セン市の地下鉄でインボイスを発行する基盤として使われている。インボイスは地下鉄利用後、Wechatや深セン市地下鉄のモバイルアプリを通じて、直ちに発行される。また、招商銀行にて電子インボイス発行基盤として使われている

参考 - LayerX Newsletter for Tech (2019/10/28–11/03)

また、Tencentは香港にて仮想銀行の開業免許を取得した。仮想銀行とは、実店舗を持たずに営業を行う銀行で、日本のネット専業銀行に形態が近い。本銀行はBlockchainを利用するもので、開業するためにチームを作り始めているとのこと。

10月19日には、中国Blockchain業界の現状と展望を分析するwhitepaperを公表した。2016年12月に政府の5か年計画の文書に「Blockchain」という用語が初めて登場し、以降国や地方がBlockchainの関連研究や標準化、産業への活用に取り組むようになったと指摘した。白書によると、2019年6月時点で中国25省、市、自治区特別行政区がBlockchain関連政策を導入しており、特にFacebookが今年6月に仮想通貨プロジェクトLibra(リブラ)を発表して以降、政府や企業のBlockchainへの関心が高まっているという。

参考: 中国25省・市・自治区・特別行政区が政策にブロックチェーン導入

他にも、TencentはWebankと共同でBlockchainベースの自動車用データベースをローンチした。自動車開発のため産業間でデータを共有することや、自動車関連保険を最適に運用することを目的にしている。

WebankはTencentによって立ち上げられた中国初のネット銀行であり、3つのBlockchain関連サービスを公開している。

  • WeIdentity: 分散IDファウンデーション(DIF)メンバーとしてデジタルID(W3CのDID仕様準拠)を開発した。資格証明書のコンテンツハッシュ値や発行者の署名をBlockchainに格納し、欧州GDPR準拠で認証データ管理する。

  • WeBase: ノード管理やデプロイ、秘密鍵管理、データ分析、マイクロサービスなどの機能を提供するミドルウェアを開発。

  • WeEvent: イベントドリブンで組織横断・プラットフォーム横断のコラボレーション・イベント通知を行うもの。イベントはBlockchainに格納されるため、改ざん困難・トレーサビリティ・監査可能性を担保できるのが特徴。

Baidu(検索エンジンで国内1位、世界2位)

昨年には、クロスボーダーセツルメント用のBlockchain基盤をローンチしている。香港とフィリピン間で送金が可能。利用者はモバイルアプリと通して直接資金を送受金できる。これにより金融機関へ出向く必要がなくなり、加えて、送金時間が数秒と極めて高速化したことで利便性が向上した。

同じく昨年に、画像の著作権保護を目的にPIC-CHAINというBlockchain基盤をローンチしている。これはBaiduの既存画像ライブライを拡張したものである。画像そのものではなく、画像のリンクと著作権情報を保存する。著作権侵害の検出にはAIを利用した別システムを用いている。

2019年1月にBaaS(Blockchain as a Service)プラットフォームとしてBaidu Blockchain Engine (BBE)を公開した。「Ethereum」と「Hyperledger Fabric」と「XuperChain」の3つのチェーンをサポートする。プラットフォームとしてパフォーマンスやスループット以外にも、Smart Contractの監査機能を備える。なお、TencentもTencent Blockchain as a ServiceというBaaSをローンチしている

2019年8月にはメディカルデータ共有等を目的に医療分野に特化したXuperChainというBlockchainをローンチした。医療データが共有されることで、診療の精度と効率が上がる。まずは、病院と薬局間でデータ共有を行う。なお、XuperChainはクロスチェーンに対応しておりEthereumやHyperledgerと相互通信が可能とのこと。

約1年前にAlipayも同様のサービスをローンチしている

Alibaba

AlibabaはBlockchain関連技術の開発に積極的であり、特許申請数では、IBMやバンク・オブ・アメリカ(Bank of America)をしのぎ、合計90プロジェクトで首位となった

そして、2019年11月にAlipayは中小企業向けに「Ant Blockchain Open Alliance」という名称のBaaSサービス基盤をローンチした。3カ月の試験運用を行なった上で、2020年2月のローンチが予定されている。エンタープライズ向けのBlockchainサービスは比較的コストが高く中小企業にとって利用障壁が高い。一方、本サービスは低コストで利用しやすいとした。加えて、信頼できるネットワークを構築するため、承認に権威づけをすべく、教育機関や認証機関などをNodeに組み入れるとした。また、本サービスはAlibaba Cloud上で提供されるが、他のCloud基盤上でも動作するとした。

参考: LayerX Newsletter for Biz (2019/11/11–11/17)

また、2019年11月29日に、Alipayアラブ首長国連邦の決済プラットフォーム企業Finablrと提携し、共同事業としてBlockchain基盤の国際送金プロジェクトを立ち上げると公表した。Finablrは170ヶ国で計2500万人のユーザーを抱え、Alipayは各国のデジタルウォレット事業社と連携し約12億ものユーザーを抱えている。そして、FinablrはRippleNetの参加企業でもある。

「今回の提携では、AntFinancial(Alipayの運営企業)の送金システムにFinablrのプラットフォームが統合された。今後Alipayの各国デジタルウォレットパートナー企業を含む送金ネットワークへの拡大を検討している」と説明した。

JD(国内2位のECサイト

2019年10月、サプライチェーン向けトレーサビリティソリューションであるZhiyiにて13億のデータが記録されたと報じた。700以上の支店で6万の製品を管理している。JDはアリババに注ぐ、国内2位のECサイトで月間利用者は3億人にのぼる。

Zhiyiは主にサプライチェーンの透明性を高めるためのものである。全ての取引が記録されるため、企業は情報の真偽を知ることができる。特に、リコールの正当性を検証する際に便利である。また、Zhiyiは中信銀行資産担保証券取引(ABS)に利用されている。

他大手企業

金融やIT領域の企業に比べて数が少ない。金融やIT領域の企業が主導するプロジェクトは、他領域もカバーすることから、いずれ、他領域も組み込まれてゆくだろうことが想像される。

SinochemとPetroChina(国有石油大手)

2019年8月にSinochemとPetroChinaは原油取引のBlockchainコンソーシアムを結成したと明かした。国内外の他企業も加盟しているとのことだが、国有企業2社しか名前が上がっていない。開発費として$15milionを投じる予定とのころ。

基盤の仕組みとしては、大手石油会社のコンソーシアムチェーンであるVAKTと似たようなものらしい。VAKTはJPMorganのQuorumを使っており、ThoughtWorksというコンサル会社が開発している。

China Telecom(国内最大の通信事業者)

2019年8月に5Gに対応するBlockchain Smart PhoneのwhitepaperをリリースしたSIMカードベースのBlockchainによるデジタル資産管理システムで、データの損失や個人情報の流出など、モバイルネットワークの運用における主要な課題を解決することが目的とのこと。

政府

習近平国家主席がBlockchain技術推進を呼びかけたことが印象的だが、政府は横断的に様々なプロジェクトを主導している。

暗号法

国家主席によってBlockchain推進が発表されてすぐに「中華人民共和国暗号法」が可決された。同法は、暗号を国家機密に相当する「中核暗号」および「一般暗号」と、ビジネスに活用される「商業用暗号」に分け、輸出入における規制や国際標準づくりの奨励などを明確にした。2020年1月1日より施行される。

中国人民銀行中央銀行

同行のテクノロジー部門トップは商業銀行にデジタルファイナンスでのBlockchain技術を導入を求めており、中央銀行が発行主体となる中央銀行デジタル通貨(CBDC)について6 年以上に渡って研究している。2019年10月にデジタル人民元(DCEP)の発行を公式発表したことが記憶に新しい。(過去記事参照

続報として、2019年12月に中国人民銀行の元総裁が「国内小売決済の導入が最初の目標」と発言した。国際間決済利用については当面の目標ではないとしつつ、国内の一般決済を実施したのち、展開する可能性があると言及した。

また、2019年10月31日に「運営するBlockchain基盤の貿易金融プラットフォームが約1兆1500億円の取引を決済処理した」と報じた。このプラットフォームは、貿易金融における決済処理やクロスボーダーの資金調達、関税記録などを担うもの。報道によれば、既に5000件以上の決済処理が行われた。

Nationwide Blockchain Service Network (BSN

中国政府は、国内向けにBlockhainホスティングプラットフォームとして、BNSをリリースすることを公式発表した。システムの開発は主に、中国のVisaにあたるUnionPayと、政府系シンクタンクであるState Information Center (SIC)、および、世界最大の携帯電話事業者である中国移動通信が担当した。2019年10月時点でテスト段階であり、翌年の3月までにbeta版をローンチするとのこと。全て無料で利用できる。

BSNAlipayやBaiduが提供するプラットフォームよりもオープンで高効率であり、20%の手数料を払えば、個人や学生がサービスを開発できるとした。ファウンディングメンバーによると、テストフェーズが終わったらオープンソース化したいとのこと。

SICは「段階的に5GとIoTとAIが普及する。そして、BNSが高品質でカスタム可能なBlockchain基盤を提供ことでデジタルエコノミーが作られる。BNSを利用して新しいビジネスが生まれる」と提言とした。

スマートシティ向けID認証システム

2019年11月3日に中国の国営通信社は、スマートシティのインフラとしてBlockchain基盤のID認証システム開発したと報じた。本システムは石家荘市、河北省の3つの行政機関のシステムに組み込まれており、当日付(3日)より市民は認証IDを申請できる。本システムは中国政府によって分散的に管理されている。

都市開発の責任者は「今日の高度に発達したインターネットにおいて、データ共有が問題になっている。サービス間を横断して使えるIDが存在しない」と統一的な認証IDの必要性を説いた。発行されるIDはグローバル標準に準拠している。

教育動画公開

中国政府はBlockchain技術について25本の教育ビデオを公開した。中国では仮想通貨関連事業について厳しく規制されているが、BitcoinやEthereumに関する情報も含まれている。完全な初心者を対象としているものの、業界を熟知している人々にも見応えのある充実した教育内容も含んでいる。